「黒書院の六兵衛」読了! レビュー

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私は、ミステリー小説、推理小説、時代小説、村上春樹など、様々なジャンルの小説を読みますが、最近は幕末から明治維新を舞台にした時代小説にはまっています。

昨日、読み終わったのは浅田次郎の「黒書院の六兵衛」です。上・下巻2冊の長編ですが、一気に読ませる、正に奇想天外の面白さでした。

最近知りましたが、昨年、WOWOWで吉川晃司、上地雄輔主演で連続ドラマ化されたそうです。私はWOWOWには入っていないのでドラマは見てませんが、吉川晃司、うん似合ってると思いました。

 あらすじ

不戦開城した江戸城を舞台にした、突拍子も無い設定だけど、なかなか良くできたストーリーでした。

話は単純で、将軍が去った後の江戸城に的矢六兵衛という金上侍(かねあげざむらい:金で武士の身分を買った侍)が本物の的矢六兵衛と入れ替わり、御書院番士(将軍警護役の旗本)として物も言わずじっと座敷に座り込みます。

江戸城には間もなく天朝(明治天皇)様が京都から引っ越してくるので、この侍を何とか城外に出さねばならない。そのために勝海舟や西郷隆盛、大村益次郎、木戸孝允などの歴史上の人物が登場して説得したり、色々と画策をします。しかし、物も言わず、ただひたすら座り続けます。

それと並行して、この侍が一体何者なのかという詮索が、六兵衛に関わった人々の証言によってミステリー小説風に展開していきます。

15代将軍徳川慶喜本人ではないか、いや天朝様の勅使だ、いやイギリスのスパイだと色々な噂も飛び交います。

10ヶ月後に天朝様が江戸城に到着すると、無言で天皇と面会した後、六兵衛は江戸城を静かに去って行きます。

結局、この侍が何者だったのか、本名も出自も一切書かれていませんし、何故10ヶ月もの間居座り続けたのか、その理由もわかりません。

それは読者の想像にお任せしますという、よくあるパターンのエンディングでした。

やや消化不良の感は否めません。

 この武士は一体何だったのでしょう?

私は、こんな風に感じました。この六兵衛は260年続いた徳川幕府の「武士の魂」そのものだったのではと。武士の魂が人に形を変えて幕府の終焉を見届け、明治時代への引き継ぎを明治天皇に託して消えていったのではないかと思います。

この六兵衛、容貌はきりりと引き締まり、体格は威風堂々とした大男で、挙措動作、身なりも美しくそつがない。腰の物は超一級の名刀。まさに武士の鑑(かがみ)と言える侍でした。

その上、この侍が横になって寝ている姿を見た者がいない。常に一点を見据えて身じろぎもせず正座し続ける。食べ物は茶坊主が届ける塩むすびと香の物だけ。

16代将軍徳川家達(いえさと)や天皇に対してもひれ伏すことなく、背筋を伸ばして無言でじっと顔を見据える。

やはり、これは人ではなく、武士の魂(霊魂)そのものだったのでしょう。

 

ドラマでは、この六兵衛の役を吉川晃司が演じたそうですが、これは役者としては「美味しい仕事」だったでしょうね。兎に角、セリフがないから覚えなくていいし、ただじっと畳の上に座っているだけでギャラがもらえたのですから。

私でもできそう。でも、正座をするとすぐに足が痺れるから、やはり無理かな。

 

六兵衛が城を出る際にひと言だけカッコいいセリフを吐きます。

「物言えばきりがない。しからば、体に物を言わせるのみ」

「男は口でベラベラ喋らずに、体に物を言わせろ」ということですね。

う~ん、カッコいい。と思うのは私だけかな?

 

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